「鏡の視点」とは

鏡リュウジが何を感じ、何を思考しているか。気楽なものからレクチャー的要素もからめた雑文コーナー。海外のアカデミズムの世界で占星術を扱う論文などの紹介も積極的にしていく予定です。

スペインで遭った占い師 1

久々に長めのお休みをいただいた。長い友人でもあり師でもある英国の占星術家ジェフリー・コーネリアスさん、マギー・ハイドさんと一緒に、イースターウイークをスペイン南部の港町マラガで過ごそうというのだ。

考えてみればイギリス以外でヨーロッパに行くのは本当に久しぶり。イギリスにはこのところ、年に2,3度は行っているから、イギリスは「外国」という気がしなくなっている。

しかもスペインは実は初。飛行機を降りたら、どうやってタクシーを捕まえればいいんだろうかとか英語は通じるのか、そんな「旅行者」的なドキドキを十数年ぶりに味わった気がする。

そしてそんな「外国」ではいろいろな出会いがあるものだ。

旅の主な目的は、スペインの「聖週間」セマナ・サンタに行われる、イエスの磔刑と復活を再現した神輿を中心とする行進を見学することであったし、それは素晴らしいものであったのだが、しかし、そこは占いフリークの僕のことである。現地の占いの実態を見たい、という気持も押さえることができない。

以前、イタリアにいったときにはナポリで路上の占い師さんにも見てもらった。イギリスでは路上には占い師はいない(法律で禁じられている)ので、それだけでもエキゾチックなかんじがしたものだ。

こうしたストリートの占い師は、学会にくるようなタイプの占星術家とは異なる、何かワイルドでたくましい魅力にあふれているものだ。そして、毒とも薬ともつかぬ魅力を放っていることも多い。

「よい子」の皆さんには、外国の街でそうした人に見てもらうべき、とはお勧めできないけれど、こうしたフリンジな体験が魅惑的なのもまた確かなのだ。

さて、マラガにて。ホテルに入ってテレビをつけて驚いた。ケーブルテレビだと思うのだが、4つのチャンネルで四六時中、タロット占い師が出演して視聴者を電話越しに占っている。

おそらくショップチャンネルの占い版のようなものなのだろう。画面下には電話番号が出ていて、そこに電話して既定の料金を払いながら占ってもらえるという仕組みなのだと推察した。(スペイン語ができないのであくまで推察)しかも、2人がかりで占っているのが印象深い。

ホテルの外では夜を徹して、イエスの最期のひとときと復活を再現する祭りがおこなわれ、大聖堂では深夜に荘厳な礼拝が行われている。

その一方でテレビではタロット占いが行われているのだ。なんという豊饒性と二重性をはらんでいる場所なのだろう。こういうことは実際に旅をしてみないとなかなかわからないものだ。

マラガの街を案内してくださったのは、現地でテレビ番組などのコーディネーターをやっておられる日本人のKさん。マギー・ハイドさんが日本人のぼくのためにわざわざ人づてにつなげてくださった方だ。スペイン語はもちろんペラペラでマラガの街のことも知り尽くしておられる。これは心強い。そして、こういうときに偶然は起きるものだ。

ご自宅に近い海辺の町でランチをご一緒したとき、たまたま通り沿いのアパートの窓にタロット占いの看板を見つけた。すぐさま、Kさんにお願いして電話をしてもらった。Kさんもこの看板には気がつかなかったということで興味シンシンの様子。

電話の相手は1時間後にホテルで会おうと言う。
ならばと、待っていると現れたのは肌の色の黒い、どこか精悍な男性。いかにもラテン系の「ちょい悪」的な雰囲気だが、どこかヒッピー風でもある。聞けばジャマイカ出身で、ニューヨークや東京、大阪などを放浪したあと、このスペインにいるのだという。

僕は、彼が小脇に抱えている本を見逃さなかった。それはマルキド・サドの小説。ほお。面白いじゃないか。なかなかの趣味。

さっそく、占ってもらうことにする。

質問をしたほうがいいのかというと、それは追々でいいという。名前はここでは仮にマルコとしておこう。

取り出したカードはぼくも見たことがない珍品。専門用語でいうウエイト=スミス版系のものなのだが、タイトルとともにヘブライ文字が書き込まれ、また色調もオリジナルとは異なっている。

さらに興味深いのはその枚数だ。ご存じのとおり、タロットは通常78枚から構成される。うち大アルカナと呼ばれる絵札はそのなかの22枚で、ここに太陽や恋人、死神といったみなさんがよくご存じのカードも含まれる。場合によってはこの22枚だけでも占いができる。

しかし、マルコの手札はどうもおかしい。タロット占いになれているぼくは一目でわかるのだが、22枚にしては多すぎるし78枚フルセットにしては少ない。なんだこれは?

聞くと48枚を使っているというのだが、そんなのはプロとしては聞いたことがあまりない。なんでだと突っ込むと、「直観」だという。フルセットを使うときもあるが、今日はエネルギーの状態でこれがいいというのだ。

そしてカードをトランプのように切ると、「右手で2枚、左手で1枚引け」という。

(つづく。次回更新予定日は4月24日)

東京アストロロジー・スクール
  • twitter
  • facebook
  • line
  • lineblog
鏡の視点