「鏡の視点」とは

鏡リュウジが何を感じ、何を思考しているか。気楽なものからレクチャー的要素もからめた雑文コーナー。海外のアカデミズムの世界で占星術を扱う論文などの紹介も積極的にしていく予定です。

マインドマップとしてのタロット

こういう変わった仕事をしていると「どうやってこの道に入ったのですか?」と何度となく聞かれる。その答え方も、これだけ聞かれていると半ば「話芸」のようになってしまって、「幼いころから魔法の童話が好きで、10歳のときにタロットに出会って…」ととうとうと話せるほどになってしまった。
で、よくよく考えてみると、この「タロット」からスタートしているというのが、良くも悪くも、この世界を一気に深く広く探求する鍵になったのかもしれない。

現在では、タロットの歴史や実態についてかなり実証的な研究も進み、タロットはもともとはオカルト的なものではなく、15世紀半ばに遊戯用のものとして誕生したということがわかっている。このことについては拙著『タロット こころの図像学』などで詳しく書いたので、ここでは繰り返さない。

ただ、ぼくが最初に手にしたタロットの入門書には、タロットは占いの道具であるのと同時に、古代エジプトから続く、秘教的な象徴体系であり、魔術のツールであるとも書かれていたのだ。
そしてそこには、占星術やユダヤ神秘主義カバラとの関連などについてもいろいろと書かれていた。子供の好奇心というのは、すごいものだ。こうしたキーワードに導かれるようにして、むさぼるように占星術や錬金術などの本に親しむようになっていったわけだ。

そして、このタロットの図像やモチーフというのは、好奇心をくすぐるもので、今の言葉でいえば、たくさんのリンクが張られているポータルのような役割を果たしたともいえるのだ。

たとえば、「愚者」というカードがある。この「愚者」とは何だろうか。カードによっては道化が書かれているものもある。こうなると、愚者のカードの意味や象徴を深く知ろうとすると、どうしても道化そのものやサーカスの歴史などについても関心を持たざるをえなくなる。書店にいけば、山口昌男氏の『道化の民俗学』やユング派のウィルフォードの『道化と錫杖』などといった本が目に飛び込んでくる。こうして、民俗学などの世界の本なども読むようになる。

「奇術師」(魔術師)にしてもそうだ。奇術の歴史などにも興味をもつことになり、教皇や女教皇のカードからキリスト教の歴史などにも関心が広がっていく。

このようにして、ぼくは読書の範囲を広げてきた。そしてそのことが今の仕事に大きくつながっているのだと思う。考えてみればタロットや占星術は、いってみればさまざまなアイデアや歴史的な観念の集積だといっていい。

当たる当たらないは別にして、兎にも角にも、人生のすべてがそのなかの要素で説明できるという前提で作られているのだから、占いのツールボックスのなかには、まさに多様な知識への道がつながっていることになる。

当てものとしての占いに関心がない人にも、ぼくがぜひ占いを体験していただきたい、もう少し深く知って欲しいと願うのは、まさにこの点にある。占いという小さな宇宙には、人生を豊かにする知識と知恵への道、リンクがたくさん張られているのだ。

東京アストロロジー・スクール
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